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* 量子・相対論15:高温超伝導(1986年:ベドノルツ=ミュラー)

Q99:1972年にノーベル賞を取った、超伝導の原理を説明する「BCS理論」によると、超伝導の高温限界は約40K(-233℃)とされていた。あなたはこの限界を超える研究をやりたいのだが、どうやって上司を説得するか。

権威のある成果に立ち向かうのは、実に困難で、リスキーなチャレンジと言える。しかし科学の進歩とは、限界への挑戦であり、その困難を突破しないと次の時代を切り開けない。無謀なチャレンジを行うか、そうとは知らずに無謀なことをやってしまった人だけがその扉を開けることに成功している。ただ、そうは言っても、なかなかそのようなチャレンジ環境を作るのは容易ではない。なぜなら研究者の周りには、常に頭の良い常識人がいて、その意欲を叩き潰そうと待ち構えているからだ。なぜそのような邪魔をするか?一つは金をムダにさせたくないという意識から、もう一つは自分の世界観や価値観から外れる事は、許せない馬鹿げた事だと信じているからである。

 1986年にチューリッヒのIBM研究所で見つかった銅酸化物系の新材料(LaBaCuO)は、それまでの超伝導材料(金属系)の最高温度23Kを大きく上回る30~35Kの転移温度を示した。これはBCS限界に近い温度であり、その枠内とは言え大きな飛躍と見なされた。そしてこれがきっかけとなり、より高温の超伝導材料を見つけようという大フィーバーが起こる。そしてそれは見事に当たり、たった1年間で転移温度は90Kに達しBCS限界はもちろん、液体窒素温度(77K)を楽に超えてしまったのである。そしてそのきっかけを作ったIBMのミュラー(Karl Alexander Müller、スイス、1927年~)とベドノルツ(Johannes Georg Bednorz、独、1950年~)は、急遽1987年のノーベル賞に輝いた。報告から受賞までたった1年というのはノーベル賞史上初めてのことであった。尚、1994年には水銀を入れた銅酸化物系材料で31万気圧の高圧下ながら164Kの最高温度が得られている。2008年に細野(ほその ひでお、日、1953年~)は、従来超伝導を起こしにくいと言われていた磁性体の鉄系材料で超伝導を見出し、まだ温度は低いながら50Kを超え、新たな注目を浴びている。

 さて、ミュラー達は一体どうやって高温超伝導にチャレンジしたのであろう。ミュラーの専門は誘電体であった。彼はこの領域で目覚しい成果を上げ、1982年にIBMフェローに選ばれる。IBM社で最も尊敬される研究者として評価されたことで、研究にある程度の自由裁量が与えられた。このチャンスを生かし彼はそれまでの誘電体材料をベースとして超伝導の研究を始め、その実験のため1983年ベドノルツを雇い入れたのである。2人は絶縁体である強誘電体に電子ドープすることで伝導体に変えることを狙った。1985年のある日、LaBaCuO系材料の可能性を論文で知り、この材料で実験を行った所、超伝導のような振る舞いを示す、しかしデータは完全ではなく学会発表でも注目は集めなかった。さらに、IBM社内の専門家が詳しく調べても、その証拠である「比熱の飛び」が見られないことから超伝導では無いと判断された。残念ではあるが、とりあえず「兆候」が見られたという論文を1986年4月に投稿した。この報告に注目し、追試を行ったのが東大の田中昭二(たなか しょうじ、日、1927~2011年)のグループであった。精度の高い調査を行い、ミュラーらの材料で確かに超伝導転移を起こしていることを実証(1986年12月)する。これが高温超伝導フィーバーのきっかけとなったのである。

 ミュラー達のチャレンジは、専門領域外の超伝導分野に自分達の自信のある誘電体(絶縁体)材料を適用させた「横シフト」であった。もちろん当初からBCS理論を越えてやろう、などとは思っていなかっただろう。事実、彼らの成果は30~35KどまりでBCS限界を超えてはいない。しかし、専門の研究者には絶縁材料からの挑戦は大きな驚きであり、将来への可能性を感じさせる強いトリガーとなった。専門家が動き出すと素人のミュラー達は全く歯が立たなくなる。事実、その後は専門集団がトップデータの先陣争いを競いあい、ほんの数年で160Kを超えてしまったのである。

もちろん実験だけでなく理論家も奮い立った、ノーベル賞理論を越えてしまったため新たな理論が必要となった上、さらに温度を上げて室温を目指すための指導原理が欲しいからだ。超伝導や超流動と言った抵抗の無い流れ現象は、原理的には協同的に振舞うボーズ粒子が示す「ボーズ凝縮」(第77話参)が理由とされている。しかし、電子はボーズ粒子では無く、むしろ排他的に振舞うフェルミ粒子の代表格であって、流れ現象においてはバラバラに動くため抵抗を感じやすい。BCS理論はこの困難を、「電子がペアを作り、このペア対(クーパーペア)がボーズ粒子となってボーズ凝縮を起こすと解釈した。しかし電子同士はマイナスで反発するため、2つの電子をくっ付ける「糊」が必要になる。その糊の役割をするのが結晶格子の振動「フォノン」だとした。しかし高温超伝導では、フォノンでは糊の効果が出ない領域に入っている。そこで別の糊を探したのである、そこでは「電子のスピン」もしくは「電子の軌道」が候補と見なされている。今後の理論の進展と室温での超伝導の発現に強い期待が持たれているのである。チャレンジはまだまだ続いているのである。

宿題99: 室温超伝導が実現できたら、どのような社会が到来するだろう?

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