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* 道具・力学19:カオス現象(1963年:ローレンス)

Q88: 明日の天気予報が当たる確率はどの程度か?又、一週間後の予報はあてになるか?

 何百年後の日食や月食の予測は簡単だが、明日の天気の予測は簡単ではない。これは何故だろう?天体の運行はニュートンの力学方程式で確実に予測でき、現在の状況(初期状態)が決まれば、何万年後の状態も精度良く計算できるからである。このような理論を「決定論」と呼ぶ。科学の世界で発見される方程式はほとんどがこの決定論であり、現在の状態を初期データとして入力すれば、その後の未来は確実に「決定」されることになる。このことから、科学が進化してより正確な法則(方程式)が見つかれば、現在の状態を代入すると未来の全ての様子が決まってしまい、意外性や面白みが無い世界になると、多くの科学者は考えて(心配して)いた。決定論的な法則は自然科学の原理に支配されている我々の行動にも同様に作用するため、私たちの意志決定すらすべて過去の状態で決められてしまうのではないかという意味の心配である。つまり我々には自由意志など無く、運命は全て過去の状態やデータで決められているのではないか、と言う悲壮感が生まれて始めていた。

 しかし実際には明日の天気すら「決定」できないではないか?決定論はウソではないか?そう考える人もいた。例えば、量子論で現れた「不確定性原理」(量子・相対論8話)、全ての観測を完全な精度で行うことはできない、という原理がみつかり、なんと現在の状態すら完全には決められないことがわかった来た。そしていよいよ、核心につながる「原理的に未来は予測不可能である」という方程式が見つかったのである。1963年、気象学者ローレンツ(Edward Norton Lorenz、米、1917~2008年)が気象研究の中で偶然この大発見をしたのだ。

 エドワード・ローレンツはコネチカット州に生まれ、ハーバード大で数学を学んだ。25歳から4年間、空軍の気象技師として働く。軍務を終えた後、本格的に気象学を学ぶためMITに入り博士号を得た。1950年代、天気予報に関する現象すら「非線形因子」(変数同士の積の項)を持つのに、当時の気象学が簡単な線形モデルだけで議論されていることに疑問を持ったのである。1960年、気象状況をシンプルな非線形方程式を用いてコンピュータでシミュレーションさせていた時、ほんのわずかな初期条件の違いが、大きな結果の差異をもたらすことに偶然気づいた。実は、計算が面倒くさいので、初期条件の小数点以下を切り捨てて計算させたところ、予想もつかない値が出て驚いたことがこの発見の発端になった。そして方程式に非線形性を導入すると、将来予測が原理的に困難になることを見出したのである。1963年に「決定論的・非周期性の流れ」なる論文を著し、天気予報の長期予測が原理的に不可能なことを示した。これがカオス理論の始まりとなる。

 言葉だけではピンと来ないだろうから、ローレンツの発見した方程式を次に示しておく、

  dx/dt=-px+py   …①,
   dy/dt=-xz+rx-y  …②,
   dz/dt=xy-bz    …③,

この(x,y,z)3変数の3連立非線形方程式が「ローレンツ方程式」で係数p, r, bは系の振る舞いを決めるパラメータ(定数)である。

 ローレンツはp=10, r=28, b=8/3なる値を気象のモデルとして1963年の論文で用いた。このモデルによると、(x,y,z)の値のごくわずかな差が、その後の時間tの発展において、大幅な差を与えることが示されたのである。方程式自体は「決定論的」であるにも関わらず、その時間発展の軌跡{(x,y,z)の値}は予想外に非周期的に変動(カオス的なふるまいを)してしまうという性質を持っていたのだ。

 ごくわずかの初期状態のずれが、その後の結果に大きく影響する1例を、鴨長明(かも の ちょうめい、日、1155~1216年)はエッセイ(方丈記)の中で見事に表現している、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」。このように川の流れに見る渦の振る舞いはまさに、初期値鋭敏性を示していて、カオス的振る舞いの代表例と言える。この他にも、ラグビーボールのバウンド、交通の流れや渋滞の発生、電線の風切り音(カルマン渦)、生物種の世代進化、電気回路の発振現象、レーザの非周期的動作等、日常生活から科学的現象までカオス現象は幅広く見られる。(注意;カオスかノイズかランダム性かの厳密な定義は実は簡単ではない。ここではそこまで深く入り込まない。)

 ローレンツの見出した、決定論であるにも関わらず強い初期値鋭敏性を示し、長期予測が原理的に不可能な現象とそのシンプルな数学モデルは、科学界に衝撃を与えた。それまでの科学界は「決定論的方程式での将来予測はいつでも精度良く可能である」という価値観を持っていたからだ。我々の将来は、現状により完全に決定されるのではなく、ほんのちょっとした意思決定の違いで、大幅に人生を変化させることができるダイナミズムが証明された、といってもよい。その意味で我々は自由意志をカオス現象により科学的に保障することができたとも言える。良かったよかった。(ただし、いつも自由意志で自律的な生活を送る事はなかなか大変なことでもある。誰かに生活スケジュールを決めてもらう事は楽なことであって、その領分が「決定論」的な部分と言えるかもしれない。)

宿題88:ローレンツは、自分の発見したカオス現象をわかり易く説明するために次のような表現をした。「ブラジルで○が羽ばたけばテキサスで○○になる。」

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