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* 熱・化学11:カルノーサイクル(熱機関の最高効率化)(1824年:カルノー)

Q34:温度の高いものを触ると熱が温度の低いものに伝わってくる。では逆に、温度の低いものから、温度の高いものに熱を伝えることは可能だろうか?

 熱いお茶は放置すると冷めてゆく、決してひとりでに熱くなることはない。つまり「熱はひとりでに冷たいものから熱いものに流れることはできない」、カルノー(Nicolas Léonard Sadi Carnot、仏、1796~1832年)はこう考えた。これがその後、この自然界を支配する基本原理になろうとは1800年代初等、誰も予想しなかったのである。後に「熱力学第2法則」と呼ばれ、「エントロピー」という概念が生まれるもとになる重要な仮説であった。では、冒頭のクイズは間違いか?いや間違いではない、「ひとりでに」というところがポイント。エアコンや冷蔵庫に使われている「ヒートポンプ」という熱をくみ上げる装置を使えば、「人工的」にはこれが可能になる。しかし自然界の中では、やはり熱は熱いものから冷たいものに流れこむだけで、その逆の現象は「ひとりでに」は起こらないのである。

 カルノーは軍人技師であった20代の頃、蒸気機関に興味を持った。なぜこれほど蒸気機関はエネルギー効率が悪いのか?当時の蒸気機関では熱を仕事にする割合は5~7%程度と低く、石炭を多量に無駄使いしていたのである。そして多くの技師たちが経験的にどうすればこの効率を上げて燃料消費を少なくできるか改良を重ねていた(熱・化学2話参照))。カルノーも同様な興味を持っていたが、彼は最高効率の理想機関はどのようなものでその効率はいくらだろうか?という極限を理詰めで考えたのである。当時はまだ熱については熱素(カロリック)説が支配していて、カルノーもこの間違った熱素の考えで考察を進めた。「誤ったモデルから正しい結論が出るわけない」と思うかも知れないが、熱の示す現象を正確に捉えたことから、彼は正しい結論を導くことに成功する。

 熱機関というのは、まずシリンダー内の気体の温度を上げ、膨脹によりピストンを「外」に動かし、次に気体の温度を下げ、収縮によりピストンを「内」に戻すという繰り返しサイクルで動作をしている。カルノーはこのサイクルを「理想的」に、つまり最高効率で行わせるためには、どのようなやり方がいいのかを考えた。仕事の効率を悪化させるのは「摩擦」と「熱の散逸」である。理想的には摩擦ゼロのピストン運動と熱が散逸して損なわれてしまわない工夫が必要となる。摩擦ゼロは想像できるが、後者をどうするか?まずカルノーは熱を動力にする基本原理は「熱い物体から冷たい物体への熱素の移動」によるもの、つまり「熱素の釣り合いの回復」と見なし、「動力の発生を伴わないつりあい回復(つまり単なる熱伝導による熱の消費)を避けること」が何より重要と考えた。具体的には「大きな温度差のある物体同士の接触を避ける」ということである。つまり「温度差を極小にして接触させればよい」とそのポイントをつかみ、「カルノーサイクル」を提案したのである(1823年)。

 カルノーサイクルとは次のようなサイクルであった、

1:高温物質に接触したシリンダのピストンを温度変化なくゆっくり膨張させる(熱素の吸引)
2:シリンダを高温物質から離し、ピストンをさらに膨張させ温度を下げる(+の仕事)
3:温度が下がったシリンダを低温物質に接触させゆっくり等温圧縮する(熱素の排出)
4:シリンダを低温物質から離し、ピストンをさらに圧縮させ温度を上げる(-の仕事)

なるほど見事に温度差のある接触をなくしている!そしてこの過程が可逆(1→4の工程をビデオに撮り、その逆再生をしたときの動作も可能ということ。逆動作の場合ヒートポンプになる)であることにも気づき、この可逆性こそが、最高の効率を発揮させるポイントであることを示した。もしそうでなければ、「熱はひとりでに冷たいものから熱いものに流れることはできない」という仮説と矛盾が生じることを論理的に証明したのである(カルノーの定理)。

 カルノーは独力で見つけ28歳で書き上げたこの革新的論文「火の動力についての考察」を出版する。しかしその発行部数が少なかったこともあり、さほど注目されないまま、カルノーはコレラにかかり36歳で夭折してしまったのである。そして発表24年後に大科学者ケルビン(William Thomson, 1st Baron Kelvin、英、1824~1907年)らによって、ようやくこの偉大な論文は正当に評価されることになる。

 ところでカルノー家は天才家系であった。父親ラザール・カルノー(Lazare Nicolas Marguerite Carnot、仏、1753~1823年)は、フランス革命で活躍した指導的軍人であり、その才能は数学や物理にも及んだ。軍生活の余暇に「エネルギー保存則の考察」や「幾何学におけるカルノーの定理」など先駆的な発見を行っている。又、2人の息子は長男のこのサディが熱力学の創始者となり、次男イポリットはカルノー法を定めた優れた政治家、さらにその息子のマリー・フランソワ・サディ・カルノー (1837 - 1894) はフランス大統領までつとめ、その大統領の弟マリー・アドルフ・カルノー (1839 - 1920) は化学者となりカルノー石を発見している、まるで音楽のバッハ家系のようなすごい天才家系であった。

宿題34:最も効率の高いカルノーサイクルの効率は一体どの程度なのだろう?又それは実現できるのだろうか?

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