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* 熱・化学16:熱の仕事等量(1843年:ジュール)

Q41:「1cal(カロリー)=4.2J(ジュール)」の公式で有名なジュールは、新婚旅行のとき、滝を見て「滝の上と下の水温はどちらが高いだろうか?」と興味がわき、温度計を使って測定を始めた(花嫁さんはさぞ困ったことだろう)。さて、どちらが高かったか?

 James Prescott Joule(英、1818~1889年)は測定マニアであった。とりわけ温度測定に関しては0.005度(華氏)の精度で温度計を読みとる技量を持っていた。そうなると温度計も精度の高いものが必要になるが、これは地元マンチェスターの腕の良い職人に何個も作らせ、自作品やパリの職人に作らせたものと比較しながら最良のものを選びだすこだわりを持っていた(温度計そのものの誤差は0.01度以下であったらしい)。ところで、ジュールはなぜここまで温度計測にこだわったのだろう?実は、彼が最初に手がけた実験は「電動モーターの効率改善」であった。当時マンチェスターでは、産業革命がいち早く進行し、1830年にはマンチェスター~リバプール間に初めて蒸気機関車が走っていた。しかしヘンリー(米、1797~1878年)等の電動モーターの発明(1832年頃)により、モーターは蒸気機関に代わる未来のエンジンとして多くの人の興味をさらっていたのである。ジュールもこの電動モーターに心を奪われその効率改善にチャレンジしていたのだ。

 モーターの効率を改善するに際し、モーターからの強い発熱が気になったジュールは、当時まだ信じられていた「熱素説(熱・化学7話)」を基に、電流が熱素を運びモーターの所で出ているのではないかと考え、様々な金属線を水の入った保温ビンに入れ、これに化学電池(これが熱素の源と考えた)から電流を流し水温の上昇を正確に測ったのである。この実験で「発熱は電流の2乗に比例して生じる」事を発見し(1840年)、翌年発表。しかし23歳で無名なアマチュア実験家の発表は注目されなかった。現在この現象は「ジュール発熱」もしくは「ジュールの法則」と呼ばれ、電流による抵抗発熱の普遍的な現象とみなされているのだが‥

 当時モーター以上に関心を持たれていたのが「発電器」であった、ジュールは次に回転できる保温ビンの中に発電機の可動コイルを入れ、電磁誘導で発電を行いながら水温の上昇を調べた。コイルはひも付き錘の降下で回転できるように工夫し、コイルに注入した力学的仕事量も正確に見積もった。果たして、水温はわずかながら上昇。その発熱量を精度良く測定することで、外部からの力学的仕事量と発熱量が比例し、その比例係数(仕事当量)が約4.51(J/cal)であることを見つけたのである(結構、いい精度である!)。この結果は1843年、「熱の仕事当量について」と題して報告されたが、これもアマチュアの道楽と冷ややかに無視された。実はこの実験にはもう一つの意味があり、化学電池以外の電磁誘導による電流でも発熱が生じることを示し、「熱素説」が否定され「熱運動説」を有力にする成果でもあったのだ。

 ジュールの興味はだんだんモーターから熱そのものに移っていった。1843年にもう一つの実験、シリンダーに入れた水を多数の穴の空いたピストンで「摩擦」することによる温度上昇を測定し、4.17(J/cal)という当量値を得ている。1844年には空気の圧縮・膨張を利用した実験を行う、水を入れた保温ビンの中に空気圧縮ポンプを入れ、空気を圧縮することで温度を上げ、その発熱を水温で測るもの。水の比熱に比べ空気の比熱が小さく、温度上昇はわずかでこれを正確に測るのは至難の業だったが、温度計もジュールの測定精度もさらに洗練され、4.43(J/cal)という当量値を得ている(注入仕事量は空気圧の測定で計算した)。この実験はさらに進化し、圧縮空気を外部容器中に断熱膨張させることで外部容器中の水を排除する力学的仕事をさせ、元シリンダーの減る熱量を測るという逆過程(つまり熱から力学的仕事への変換)の実験を行い、熱⇒力学的仕事の当量値も4.30(J/cal)程度と、力学⇒熱過程と同等であることを証明した。両方向で互換であることが人類史上初めて分かったのである。

 いよいよ、教科書に良く出ている「羽車の実験」が1845年になされた。錘を下降させることにより保温容器水中の羽根車を回転させ、水温の上昇を測るというアレである。要するに水をかき混ぜることで温度を上げるというシンプルものだが、1kgの錘を10m下降させたとき100cc(100g)の水温はたった0.2℃しか上昇しない、しかも熱は逃げやすく実験上の熱損失も含めると実験精度を保つための工夫たるや尋常なものではなかった(はずだ)。しかし根気良くこの実験を繰り返し、当量値4.21(J/cal)を得ている。しかしまだ満足しないジュールは1847年に水銀中でも羽根車実験を行い、当量値4.24(J/cal)を得る。さらに液体との摩擦ではなく固体同士の摩擦ではどうだろう?と考え、1850年には水銀中に入れた鉄板同士の摩擦実験を行い、摩擦音の発生によるエネルギー損失まで補正し、4.17(J/cal)を得た。ここまでくるとマニアを通り越えた精神異常者である。尚、現在の正確な仕事当量は4.1855(J/cal)であるから、材料を代え形を代え人生を掛けたジュールの実験の精度の良さとその根気強さには脱帽する他ない。果たしてあなたならここまでできるだろうか?

宿題41: 当時の科学界から無視され続けたジュールの成果は、1847年の発表で超天才、若手物理学者ウィリアム・トムソン(William Thomson=初代ケルビン卿、英、1824~1907年:当時22歳ながら既に科学界のリーダであった)に大きな衝撃を与える。当時「熱素説」をまだ信じていたトムソンはジュールの発表に「多くの点で間違ってはいるが、ある1点だけは否定できない。」と高く評価し、科学界にその成果を広く紹介したのである。「ある1点」とはいったい何だったのだろう。

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