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* 電気・磁気5:番外編5:エアコン(1930年:ミッジュリー)

Q番外5: とにかく暑い!しかしあなたは電気の使えない環境に居る。涼しくなるためには、いったいどうすればよいか?

 水浴びをして外気に体をさらす旧来からの手法だが、気化熱が奪われるため(風があれば気化がより進むのでさらに涼しくなる)体温が奪われ、涼しくなる。水浴びをしないまでもぬれタオルで体をふいて、団扇(うちわ)で扇げば涼しくなる。気化熱を奪うこの冷却法は、動物や植物もやっているシンプルで電力も要らないエコな手法である。ところでこの方法でどの程度まで温度を下げられるだろうか?意外なことに、零下にまで下げ氷を作ることも可能なのである。英国の化学者ウィリアム・カレン(William Cullen、英、1710~1790年)は1748年にエーテルを低圧にして気化させて氷を作ることに成功している。人工冷凍技術の先駆けであった。1758年にベンジャミン・フランクリンも同様な実験をアルコールやエタノールで行っている。エタノールに浸けた温度計の先をふいごでしっかり吹いたところ温度計が-18℃を示しその先には氷が着いたとのことだ。この結果に驚き、「真夏に人間を凍死させることができる!」と友人に伝えている。

 1800年代に入るとこの蒸発による気化熱を奪う手法はさらに発展した。1810年から1820年にかけ、英のリズリーやファラデーが気体をまず圧縮して液化させ、温度を室温に戻した後で、減圧気化させる方法で冷凍技術を開発している。冷媒にはアンモニアなどが用いられ、なんと冷蔵庫まで試作された。1845年、米フロリダの医師ゴリーは、この圧縮法を利用して氷を作り医療に活用していたが、医療より製氷技術に興味が移り、1851年製氷機の特許を取得した。製氷や空調の事業化を目指したが支援者の死去により、貧困と病気に苦しみ1855年に死亡してしまう。残念な事である。

 ところで現在のヒートポンプ式の冷却技術は、1824年のカルノーの熱機関の理論を起源としている。カルノーは最高効率の理想的熱機関として「カルノーサイクル」を発明したが(熱・化学11話)、この提案は彼の死と共に長い間埋もれてしまった。この機関を逆運転させれば、温度の低い環境(室内)から熱をうばい、温度の高い環境(外部)へ熱を捨てるという働きをする「ヒートポンプ」ができるはずだ、ということに天才トムソン(ケルビン卿)が1852年に暑いインド滞在中に気付いた(まさに必要は発明の母である!)。つまり冷却機の原理もカルノー理論で科学的に議論でき、最も効率の良い冷却装置に導いてくれるということが分かったのである。ここにそれまで現場装置の改良で進化をしていた「蒸気圧縮冷却技術」の理論的基盤がようやくできたのだ。

 ところでうまく事業に活用された冷却装置は独のリンデ(Carl Paul Gottfried von Linde、独、1842~1934年)によってなされた。リンデはスイス連邦工大でクラウジウスに学んだ後、1870年からミュンヘン工業学校で圧縮式アンモニア冷凍機の研究を行っていた。この研究に興味を示したのがドイツのビール醸造メーカーである。ビール醸造が丁度、酵母菌による「低温発酵法」(いわゆるラガー系ビールの発酵法でそれまでの高温発酵ではエール系ビールが作られていた。低温発酵では長期保存が可能になりビール産業を拡大できたのである。)を得て技術革新の時代を迎えていた。リンデは冷凍機の強いニーズに遭遇し特許を取得、1873年から精力的に冷却装置を試作した。その後事業化に成功し多忙になったため、1879年に学者をやめリンデ製氷機会社を設立し1890年までに750台もの製氷機を販売する。近代ビール工業の形成期にうまく乗ることができたのである。リンデはその後、教授職に戻り新たな冷凍サイクルや超低温技術の研究を進め、学問と事業をうまく両立させていった。

 一方、最初の電気式エアコン(クーラー)は、1902年米のキャリア(Willis Carrier、米、1876~1950年)によって発明された。コーネル大を卒業した彼は、印刷工場の「湿度管理」(温度ではない)に目を付け、その低湿度制御をする機械を作り工場に導入する。それは湿度制御が印刷の品質と歩留まりに大きな影響を及ぼしていたからである(乾燥環境が印刷には好条件となる)。1906年に彼はエアコン技術の特許で表彰され、エアコンの父と呼ばれるようになった。又1911年にはエアコン設計についての技術を公開し、現在も使われる設計指針になっている。彼の回顧録より、「ある霧の深い夜、列車を待っている間、温度と湿度を制御する方法を考えていた。その時アイディアが閃き、列車が到着するまでに湿度と温度そして露点の関係を理解でき発明に至った」。常に問題意識を持つ事の重要さが分かる。

 エアコンの進化にとり、1930年のフロンガスを冷媒として用いる発明はエポックメイキングであった。それまで冷媒としては、アンモニアやプロパンなどが使われていたが、有毒、可燃性のものが多く、死亡事故の危険性があったのだ。米のミッジュリー(Thomas Midgley, Jr.、米、1889~1944年)はこれらの課題を解決するため、フロン系の冷媒を開発、無味無臭不燃で人にも安全しかも冷却効率が高い優れた材料をもたらした。これによって多くのヒートポンプが生産され、冷却技術は産業用途から家庭用へと、利用が拡大されて行くのである。ところが、フロンガスは大気のオゾン層を破壊するという研究結果が1974年に出され、1985年あたりからフロンの生産規制と代替フロン冷媒の開発が盛んになる。そこで現れたのが、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類とハイドロフルオロカーボン(HFC)類であるが、今度はこれらのガスに温室効果が強く、地球温暖化への影響があるとされ、さらに暗礁に乗り上げた。現在ではガス回収の義務化や新たなイソブタン系冷媒の開発が進んでいる。

宿題 番外5:冷暖房器には性能指数を表すCOP(Coefficient Of Performance)という指標がある。これは使ったエネルギー量の何倍の冷暖房効果があるかを示していて、 COP = 冷暖房能力(KW)/消費電力(KW) と計算される。たとえば通常の電気ストーブだとエネルギー保存則より、COP = 1.0となる(これが暖房機としては最悪の値である)、では今の省エネ・エアコンは、どのくらいの指標に進化しているだろうか?

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