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* 電気・磁気13:真空管(1884年:エジソン、1904年:フレミング)

Q52)白熱電球の改良を行っていたエジソンは、長く点灯した電球のガラス内面が黒く煤(スス)けることに気づいた。これは光の透過を邪魔する上、電球寿命にも悪影響があると考え、煤がつかない「ある工夫」を思いつく。将来のエレクトロニクス革命に繋がることになった、ささやかな工夫とは一体何だったのだろう?

エジソンが行った唯一の科学的発見「エジソン効果1883年」のきっかけとなった工夫である。 そしてこれこそが、エレクトロニクス時代を切り開く素子「真空管」誕生の種であった。エジソンはこの煤取りの工夫で奇妙な現象に遭遇する。持ち前の好奇心で、フィラメントと白金電極の間に直流電圧を掛けてみると、離れていて接触していないフィラメントと白金間に電流が流れたのである!詳しく調べると、正電圧を白金側に掛けた時だけ煤をよく吸着するとともに電流が流れ、一方負電圧を掛けると電流は流れず煤も吸着しなかった。さらにフィラメントの明かりを明るくしたほうがより電流が流れることも分かった。いわゆる2極真空管の「整流作用」が見つかった瞬間である。しかしなぜか、エジソンは翌年に特許出願をしたものの、それ以上この不思議な現象を追求しなかった。電灯の実用化、電力の設備化、電気機関車の実用化など電気産業の時代を切り開くことに多忙で、この奇妙な現象がそれほど重要な意味を持つとは思えなかったのである。(この事よりエジソンは科学的感性が技術的感性ほど強くなかった事を感じる)

 フレミング右手&左手の法則で有名な、イギリスのフレミング(Sir John Ambrose Fleming、英、1849~1945年)は1882年からエジソン電灯会社で顧問として働いていた。そして幸運にもその時この「エジソン効果」に遭遇したのである。イギリスの大学で物理学教授もやっていた彼は、実に奇妙な現象でうまく説明ができないことを気に掛けていた。この現象のメカニズムは1901年ようやく、リチャードソン(Owen Willans Richardson、英、1879~1959年)によって解明される。加熱したフィラメントから真空中に放たれた電子が、負電荷を帯びているため煤吸引用の金属電極に+の電圧がかかっている時のみ捕獲され、電流が流れるというメカニズムである。電子の存在が知られていなかった1883年には理解できない現象だったのである。尚、電子の発見はエジソン効果発見から14年後の1897年JJトムソン(Sir Joseph John Thomson、英、1856~1940年)によりなされ(電気・磁気18話参)、リチャードソンはトムソンの弟子であった。

 さて、一方のフレミングだが、22年後の1904年、当時現れた「無線」の研究に夢中になり、振動電流(つまり電波の高周波電流こと)を直流に変換する「検波」技術を探していた。その時22年前の「エジソン効果」を思い出したのである。これを使うと検波ができるに違いない!フレミングはフィラメントの周りを円筒状の金属(プレート)で取り囲むように煤取り電極を改良し、電子を効率よく捕獲できるようにして、2極真空管を発明したのである(1904年)。ただしこの特許はエジソン特許と構成が同じであるため米国で認めらなかった。さらに当時、同様の研究をしていたド・フォレスト(Lee De Forest、米、1873~1961年)は、フィラメントとプレート電極の間にグリッドと呼ばれるジグザグ状の電線(グリッド電極)を挿入することを発案し「3極管」を発明する。フォレスト自身もそのメカニズムはよく分かっていなかったのだが、微小な電流の増幅作用がグリッド電極の効果により確認され、電話や無線の信号増幅に活用されたのである。その動作原理はその後、GE社の研究員ラングミュア(Irving Langmuir、米、1881~1957年;LB膜の発明で著名な化学者)によって解明され、さらなる改良と実用化がなされて行った。

 以上に見るように、真空管というエレクトロクス社会を切り開いた重要なデバイスも、電灯技術の進化の中で偶然見つかった現象がきっかけになっている。しかし歴史は、ちゃんと次の無線技術という応用を用意し、そのニーズを作りだしていたのである。そしてニーズを得た真空管は、不思議な科学現象に過ぎなかった「種」から見事に芽を出し、特性と信頼性をどんどん向上させ産業に成長していった。このように、偉大な発明というのは歴史的背景を無視して、生まれることはほとんど無い。その意味で天才は歴史の中で作られると言っていいだろう。時代に合わない画期的な発明というのは、いくら優れた天才であっても成しえない。つまり、天才とは時代の流れを敏感に感じ取り、その流れの中で遊歩している人ということもできる。発明や発見の前後には必ず予兆やニーズが漂っているのである。

 エジソン効果にも実は予兆が見られていた。エジソン効果が発見される30年ほど前1857年頃、独のガイスラー(Johann Heinrich Wilhelm Geißler、独、1814~1879年) とプリュッカー(Julius Plücker、独、1801~1868年) は低圧ガスの入ったガラス管中の2電極に高電圧を駆けると、ガラス管が陰極線により光ることを見つけていた。これは現在のネオン管や蛍光灯の先祖である(ガイスラー管)。その後1875年、クルックス(Sir William Crookes、英、1832~1919年)は内部の真空度を上げ、真空放電の現象を詳しく調べる事で、磁石により電子線を自在に曲げられ、ガラス管に光や影を映すことができることを示したのである(クルックス管;これは後のTV用ブラウン管の先祖である)。このように、真空中に電極から何か負電荷を帯びた物質が飛び出していることがエジソン効果の前にすでに知られていて、見世物としても喜ばれていた。エジソンがその奇妙な現象を見つけるための機は充分熟していたと言えるだろう。(トランジスタ技術、2015年2月号に掲載)

宿題52: 3極真空管の発明者であるド・フォレストは、優れた未来予測を行っている。例えば、「マイクロ波(電波の一種)は将来、台所で瞬間的に食べ物を加熱することに使われるだろう」と現在の電子レンジを予測している。それでは、3極管の進化素子でありベル研究所がトランジスタを発明した時、これについてどのような予測をしただろう?

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