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* 電子・IT・新技術15:導電性高分子(1977年:白川ら)

Q96:空気も水もプラスチックも、あらゆる物質はその内部に電子を持っている。電子は電気を流す素だから、全ての物質は電気を流していいはずと思われる。しかし、なぜプラスチックなどは電気を流さないのだろう?

 ところがどっこい、電気を流すプラスチックが1977年に現れた。これまで絶縁体と考えられていたプラスチックが金属のように電気を流し始めたのである。プラスチックの中に自由電子を置くことに成功したと言えよう。この発見(発明)は、科学史上でしばしば耳にする「セレンディピティー」の1例であり、実験を間違えたことが発見のきっかけであった。

 1967年、日本の大学(東工大)に一人の韓国人研究生がやって来た。彼にポリアセチレン(アセチレンC2H2を重合させてできる、黒色の粉末物質)の合成をやってもらおうと、レシピ(作り方の処方箋)を渡し実習をさせたが「うまくできない」という。よく見ると、粉末ができるはずなのに「膜」が張ったようなものが出来ている。どうやら、彼はレシピを読み間違えて、触媒を通常の1000倍も入れる「ミス」をしていたのだ。しかし、このミスこそがポリアセチレンの重合に大きな進化をさせることになる。従来ポリアセチレンは粉末しかできず、プラスチック特有のフィルムにすることが困難だった。指導をしていた白川英樹(しらかわ ひでき、日、1936年~ )はこの「失敗」に驚き、触媒濃度を変えて実験を繰り返してみた。そしてある高い濃度では確かにフィルム化が起こることがわかり、そのメカニズムも解明したのである(1969年)。また面白い事に、そのフィルムはプラスチックにもかかわらず金属的な光沢を示していた。実はその光沢は電気を流す可能性を示唆していた。

 それから6年後の1975年、無機合成の化学者マクダイアミッド(Alan Graham MacDiarmid、ニュージーランド、1927~2007年)が東工大を訪れた。この時、彼は自分の研究成果である金色に輝く硫化窒素ポリマー(SN)xの膜のサンプルを見せた。「それなら似たような銀色に輝く膜が既に東工大でも出来ている」と白川のアセチレン膜を紹介した時、マクダイアミッドは飛び上がらんばかりに驚き、その場ですぐ共同研究を申し出たのだ。翌年、白川は彼の所属する米ペンシルベニア大に招かれ、物理屋のヒーガー(Alan Jay Heeger、米、1936年~)を巻き込み3人でプラスチック高分子膜の電気伝導の研究を進めることになった。当時白川のポリアセチレン膜は金属光沢をしてはいたが、まだ顕著な電気伝導性はなかった。ただ、金属光沢は、物質中にやや自由度のある電子が存在することの予兆であり、電気電動の可能性に化学者2人と物理学者1人の混成チームでチャレンジしたのである。

 シリコンなどの半導体も金属光沢をしているが、やはりこのままでは電気を充分に流さない。シリコンに電流が流れるようにするためには不純物を少し混ぜて(ドーピングと呼ぶ)自由電子を与える操作が必要になる。当時ポリアセチレンも半導体のような性質があることまでは分かっていた。そこで「何かを旨くドーピングする」ことができれば、導電性が現れるのではないか?と期待が高まっていたのだ。そこでカリウム(K)塩素(Cl)臭素(Br)、など、可能性のありそうな元素を混ぜて実験を進めてみた。すると臭素ドープで電気伝導が飛躍的に向上することが分かって来た。さらにヨウ素(I)のドーピングがより効果的であることも確認でき、学会で公開実験を交えて発表したのである(1977年)。これが「導電性プラスチック」の誕生となり化学界に衝撃を与える事になった。

 それにしても、やはりプラスチックが電気を流すことは、そう簡単には信じられない。「電気が流れる」とは、電子が、抵抗の少ない電気的な通路を移動することがそのメカニズムだ。つまり「舗装された通路」を準備し、そこに自由電子を流せばよいことになる。有機高分子は炭素(C)の結合により骨格が作られるのだが(熱・化学22、23話参)、この炭素結合領域が実は「通路」となる。炭素結合には1本の手が非常に強く結合したσ結合と2本の手が結合したσ結合+π結合があり、このπ結合がゆるい結合のため、電子の通路になりやすい。又、π結合の担い手である電子のことを「π電子」と呼び、これが自由電子の候補となる。しかしπ電子は炭素原子上に充満(満員電車状態)しているため、身動きが取れず電気が流れないのだ。ここで電子を適度に引き抜き、満員緩和をするのがヨウ素などのドーピング操作。これによって電子(正孔)が動きやすくなり、炭素骨格でできたプラスチックシートの中をπ電子が流れだすというメカニズムである。

 さて、電気を通すプラスチックの応用分野は広い。最近、我々がもっとも利用しているのが、スマートフォンなどの透明タッチパネルだろう。ディスプレイとして光を通し、しかもそのパネルを押すことで電気を検知するフィルムは、この発明無くしては実用化できなかった。さらに有機ELパネルなどフレキシブルなディスプレイのフィルムにも導電プラスチックが使われている。さらに見えないところでは、リチウムイオン電池(2019年ノーベル賞)の電極や、電気を貯めるコンデンサの電極にも利用されていて、その軽量性、柔軟性(フレキシブル性)、透明性など、が電気伝導性と共存しながら生かされている。さらに将来はプリント技術を活用しトランジスタなどの薄膜デバイスを導電性プラ膜上に回路と共に書き込み、複合機能を出すプラスチック膜がウエアラブル(衣料のような)電子機器となって現れてくるだろうと期待が膨らむ。

宿題96:導電性高分子が発明されるに至ったのは、人との出会いとそのコミュニティー活動がきっかけになっているように見える。ではどのような出会い(融合)が創造性を生むのだろう?

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