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* 熱・化学26:自己組織化の原理(1977年:プリゴジン)

Q95:H君は、風の強い海岸を歩いていて、砂が縞模様を作る「風紋」に気がついた。しかし海岸全体で出来ているわけではない。どのような条件だと出来るのだろう?

 風や水流が縞模様を作る現象は、砂、海底、雲、などいろいろな所で見られる。基本的に流体が、ある境界面と相互作用することで、流れがパターン化され(渦の発生)それが砂などに転写されてできたものである。境界面は完全に平らでは出来にくいが、ほんの少し凹凸が生じると、そこをきっかけにパターンが成長する。道や広場にできた小さな水溜りの凸凹が、通行量が増えるにつれて、だんだん大きく成長するのに似ている。

 自然はほおっておくと、時間と共にランダム(乱雑)になり風化してしまう。私の机の上も整理してしばらくするとすぐに乱雑化されてしまう。これらはまさにエントロピー増大の原理(熱力学第2法則;熱・化学19話参)に従っていて、この原則から逃れることはできないようだ。しかし、よくよく眺めると、パターンを形成したり、リズムを作るなど、秩序らしきものを形成する現象は少なからず存在する。クイズに上げた風紋もそうだし、味噌汁の作るパターン、金平糖のツノ、台風の発生など、自然界にも結構見られる。さらに、化学の領域でベルーソフ=ジャボチンスキー反応と呼ばれる反応液の色が周期的に変化する興味深い現象などもある。又、我々、生物に目を向けると、卵から生体組織が秩序だって発生し、傷を受けても治癒する現象がある。これらは自己組織化現象と呼ばれ、エントロピーが減少しているように見える。それはエントロピー増大則に反すると考えられるが、これはいったいどうしたことだろう?

 エントロピー増大、つまり秩序の崩壊という原理は、実は前提条件がある。それは「孤立した系ではそのようになる」、という前提だ。孤立系とは、外界との間でエネルギーや物質のやり取りが禁じられている系を意味している(全宇宙は一つの孤立系と考えられる、しかしその中の部分的な銀河は孤立系ではない)。又、参考までに、外界とエネルギーのやり取りできるが物質のやり取りできない系を「閉鎖系」と呼ぶ(地球などの惑星はその1例)。さらに、エネルギーも物質もやり取りできるのが「開放系」(生物など)である。そして開放系であれば、エントロピー増大原理に縛られないため、その中でエントロピーが減少してもおかしくは無い。まさに生物は食べ物やエネルギー、情報を積極的に自分の内部に取り込み、エントロピーを外界に吐き出して秩序を生成しているのである。自己組織化とは、このように開放系で見られるエントロピーを減少させている面白い現象であり、「複雑系」などとも呼ばれ、そのメカニズムの解明に興味が持たれている。

 ところで、20世紀半ばまでの科学は、基本的に熱的に落ち着いた「平衡状態」を扱って来た。運動がある場合も、エネルギーの流れが安定になった「定常的な状態」とそれに近い系のみを考察していたのである。ところが開放系の場合、平衡からかなり離れた状態(非平衡状態)で興味深い現象が現れ、そこで秩序が発生したりする。つまり「非平衡での開放系の振る舞い」を扱う必要が出てきたわけで、とりわけ生物の示す本質的な機能もここにあると思われる。この非平衡状態の分析に熱力学的手法を発展させたのが、ベルギーのプリゴジン(Ilya Prigogine、露⇒ベルギー、1917~2003年)であった。1917年、ロシア革命の最中に生まれ、4歳でベルギーに移住する。ブリュッセル自由大学で化学を学び博士号を取得、26歳の若さで同大教授となった。そして1945年に、系が非平衡なままで定常状態となった場合、「エントロピーの生成はゼロでない最小値に落ち着く」という非平衡状態の特徴を発見する(最小散逸状態)。

 プリゴジンはその後、「ブルッセレーター」と呼ぶ(ブリュッセルから名付けられた)化学反応モデルを用いて、勢力的に自己組織化を行う非平衡開放系の数学的解析を行った。そこでは、非線形反応方程式(マスター方程式)の安定性や分岐が、ロシア人数学者リアプノフ (Aleksandr Lyapunov、露、1857~1918年、弟は作曲家のセルゲイ・リャプノフ)の考えた方法で議論されていて、安定な振動状態(リミットサイクル)への漸近や「ゆらぎがトリガーとなる秩序化」などが分析されている。又、これらの手法を、より広い現象、例えば、生活環境における人口問題や生物種の適者生存の問題、さらには経済機能を持つ都市発展の問題などにも展開し、自己組織化の議論が様々な現象に適用できることを示したのである。

 プリゴジン以外にも、自己組織化現象にアプローチした人は少なくない。ハーケン(Hermann Haken、独、1927年~)はレーザが通常の光源と異なり、コヒーレンス(相関性)の高い発光を行うことに注目して、その秩序化のメカニズムを分析した。彼は光を出す多数の電子群の本来無秩序な振る舞いが、強い非平衡状態に置かれた時(反転分布状態と呼ばれる;量子・相対論12話参)、光との非線形な相互作用が生じ「支配と隷従のメカニズム」がそれらに働くことで協同的な振る舞いを始める。そして、その共同作業が正のフィードバックを受けることで自己成長する事により相関性の強いコヒーレントな光の放出に至る(誘導放出光)という事を明らかにした。いわば「バラバラな意見を持っていた個人集団が大きな危機状態に陥った時、そこに強い意志を持つリーダが現れ、全員の意見がそのリーダの意見に統一される」という政治的現象に似ている。また、米の理論生物学者、カウフマン (Stuart Alan Kauffman、米、1939年~) は地球上生命の起源や生物進化について考察を行い、非平衡な環境下での自己組織性が生態系の現象の理解のポイントであり、そのような非平衡で非線形な構成体を「複雑系」(complex system)と呼んだ。そしてその考えは天体の構造やビジネスのマネジメント戦略にまで展開可能だと一般化展開している。

 エントロピー増大則に反するように見える自己組織化のメカニズム(相互作用)に興味を持つだろうが、意外と重要な要素が、系を包みこんでいる境界条件(初期条件)と思われる。事実、パターン形成現象においてその模様やリズム(空間パターンと時間パターン)はこの境界条件によって大きく変化する。これは方程式における初期条件の与えかたに対応していて、安定解が初期条件(=境界条件)により変わることはよく知られたことであり、非線形系においては特に注目すべきポイントだと考えられる(道具・力学19話参)。又、その境界条件を誰がどのように与えているのか、という事にも注意を喚起しておきたい。この宇宙や生命の発生において一体誰がこの初期条件を与えたのだろう、神はやはりいるのだろうか?

宿題95: 地球は熱力学的には閉鎖系と考えられる。ここで温暖化などの環境問題が生じている理由を考えてみよう。

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