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* 熱・化学25:人工光合成(1972年:本多、藤島)

Q94: なぜ植物の葉は緑色なのだろう?

太陽光の吸収を良くしようとすると、葉っぱの色は黒になるのが最良である。実際太陽電池の表面は黒か暗い紺色にして光の吸収率を上げている。ところが、天然の植物の葉は一部赤の葉を持つ植物がある(赤しそ、もみじ、水草の一部など)ものの、ほとんどが緑である。一方で太陽光の中でもっともエネルギー総量が多いのが緑である。つまり植物は太陽光のもっとも美味しい部分(緑色領域:500nm~600nm)を反射によって捨ててしまっている(それ故、葉は緑に見える)のだ。これはいったいどういう事だろう?自然はムダをしないはずだと予想していたが、光合成に関しては最大のムダを光受容のところで行っている。もっとも、もし葉の色が光合成(光吸収)の効率を最大にできる黒だったとすると、森は真っ暗になり、他の生物が生息できなくなる可能性があるのだが、、、ひょっとすると全生態系の設計者は他の生物を生息させるために植物には赤と青の光のみを(吸収させるように)与えて、他の動物などに視感度の高い緑を分配したのだろうか?(もしそうだとすると、神の自然界設計は全体調和を捉えていて見事というほかない) <

 さて、光合成は「CO2(二酸化炭素)を太陽光エネルギーでC6H12O6(糖)とO2(酸素)に還元すること」と習った人が多いだろうが、これは表面的なふるまいで本質は少し異なる。光合成は大きく明反応と暗反応の2つのプロセスから成り立っていて、明反応「光のエネルギーでH2O(水)を分解し電子を取り出す」の結果、電子伝達物質のNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)と化学エネルギー物質のATP(アデノシン3燐酸)が合成されO2が排出される。そして暗反応「CO2と明反応の成果物NADPHとATPを原料にして糖を合成する」の結果、CO2が電子により還元されH2Oが排出される、これはカルビン回路により行われている。これらを化学反応式で表すと、以下のようになる。

明反応: 12(H2O) + 12NADP+ +48hν → 6(O2) + 12NADPH + 12H+ … ①
     72H+ + 24ADP + 24Pi(燐酸) → 72H+ + 24ATP … ②
暗反応: 6(CO2) + 12NADPH + 18ATP + 12H+ 
     → (C6H12O6) + 12NADP+ + 18ADP + 18Pi + 6(H2O) … ③

これらの反応をまとめると以下の反応となり、CO2を還元して糖とO2を作る事になる。
総反応: 6(CO2) + 12(H2O)+48hν(光エネルギー)→ (C6H12O6) + 6(H2O) + 6(O2) … ④

 では人工光合成とは植物の光合成を完全に模倣することだろうか?実はそれはあまり意味がないと考えられている。理由は2つ、まず植物の光合成の効率は実はあまりよくない。それを忠実に真似るより部分的に模倣をし、より優れた特性を出すほうが有効であること。2番目に植物の光合成反応は数多くの複雑な要素反応からなっていて、それを逐一人工的に再現することは非常に困難であること。ではどの部分を真似ると光合成の本質を人工的に模倣したといえるのだろう?それは明反応の「光を使い、水を分解し電子を引き出す」プロセスと暗反応の「電子でCO2を還元する」プロセスの2工程と考えられる。

 藤嶋(ふじしま あきら、日、1942年~ )は1967年、本多(ほんだ けんいち、日、1925~2011年)の指導のもと、大学院時代水中のTiO2(酸化チタン)とPt(白金)を電線でつなぎ、紫外線光を当てると気泡が金属表面から出てくることに気づく。TiO2による光触媒効果によりTiO2側からO2が、Pt側からH2が発生しており、両電極間に電流が流れる(光発電する)ことが分かった。つまりTiO2が光を吸収し電子とホールペアを作り、そのホールによりTiO2表面で水が分解され酸素を排出、電子は電線を通りPt電極に届きそこで水素イオンを還元することで水素を排出する、というメカニズムである。これは水が光によって分解され電子と酸素を排出するという明反応に似ていて、現在半導体を用いた人工光合成(光触媒)のさきがけになっている。今後の課題は紫外線でなく、可視光線や赤外線でも効率よくこの効果を出せるようにすることだ。

 ところで意外と低い光合成の効率はどの程度なのだろう?まず太陽光の全光エネルギーのうち、緑を捨て赤と青の光のみを葉緑体で吸収する際の光吸収効率は最大でも約40%に減る。次に、光を受けた後の糖合成の効率を調べると、上の④式より1分子(1モル)のブドウ糖(2870KJ)を合成するのに必要な光子の数は48N(N:アボガドロ数)個であるのでこの光子のエネルギーは、赤色光(0.66nm)の場合約8640KJ、青色光(0.46nm)の場合約12400KJとなる。つまりここで光合成が理想的に進んだとしても、この差分のエネルギーは熱となって捨てられるのため、赤色光による光合成では最大33%(=2870/8640)、青色光では最大23%(=2870/12400)の効率に落ちる。これらの効率を掛け合わせると、理想的に反応が進んだ場合の最大効率は13%(赤)、9%(青)となるのである。つまり光エネルギーを糖という化学エネルギーに変換する光合成の効率は全てのプロセスが理想的に進んでも13%を超えられないという事が分かる。さらに糖から「呼吸」による再エネルギー化を考慮すると、呼吸の効率は高々30%程度に過ぎないのでなんと生命を維持する全過程では3%程度という燃費効率となる。自然の設計者はもっと賢いと思っていたが、植物が光エネルギーを生命維持に使っているエンジンの効率はなんと3%の低レベルだと言う事に驚く。

 現在の半導体太陽電池の効率(太陽光エネルギーから電気エネルギーを取り出す割合)は最高のもので43.5%(2012年、日シャープ)が得られていて、量子ドット技術を用いると理論的には60%以上も可能と考えられているので、植物の光合成より効率は高い(実用化されている太陽電池の効率は10%程度)。ただ太陽電池を製造する時に大量のCO2を排出し、利用時にはCO2を還元しないため、エコ(地球環境対策)の点で太陽電池は少し物足りないと言えるだろう。太陽光を有効に利用できる人工光合成技術が生まれると利用時に化学物質にエネルギーを溜め、CO2も還元できるため優れた地球環境対策になる。これは未来技術として大いに期待され、日本の開発が世界をリードしている分野である。

宿題94:ある星で生物系が生き延びるためには、必ず一部の生物種が光合成を行う必要があるだろうか?

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