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* 電子・IT・新技術12:宇宙背景放射(1965年:ペンジャス&ウィルソン)

Q90: この自然界において最古の化石は何か?

 この宇宙はいつどのように生まれたのだろう?という疑問は科学の3大問題の一つといわれている(他の2つは、物質とは何か?生命とは何か?)。この難問に対し1930年頃、ベルギーの司祭で天文学者のルメートル(Georges-Henri Lemaître、ベルギー、1894~1966年)は、「宇宙は『宇宙卵』が創生の瞬間に爆発して始まり、その後膨張を続けておりその年齢は100~200億年くらいだ。」という、「ビッグバンモデル」を提唱した。尚、ビッグバンという名前を付けたのは、この仮説を全くナンセンスと批判した英の天文学者でSF作家のホイル(Sir Fred Hoyle、英、1915~2001年)である。彼は宇宙に始まりがあるという仮説を嫌悪し、批判的な名前の「ビッグバン」をあてがったのだが、この名前を面白がって利用したのが、1940年代に宇宙誕生モデルを理論展開した、露の科学者ガモフ(George Gamow、露⇒米、1904~1968年)であった。ガモフはその中で、ビッグバンで発生した光が140億年後の現在、マイクロ波の化石となって宇宙全体に漂っている「宇宙背景放射」(cosmic microwave background:CMB)になっていることを理論的に予想していた。

 時代は20年進み、コロンビア大のタウンズ(量子・相対論12話)の下でメーザーを使った電波天文学を研究していたペンジアス(Arno Allan Penzias、独⇒米、1933年~)は1961年に米ベル研に入り、同僚のウィルソン(Robert Woodrow Wilson、米、1936年~ )と共にマイクロ波アンテナ感度の改良を行っていた。そして1964年、起源のよく分からない雑音を捉えたのだ。おそらくこれは近くのマンハッタン都市部から発生する電磁ノイズだろうと考え、雑音の方向依存性を調べたのだが、どの方向からも同様の強さで雑音が受信されたため、都市からのノイズでは無い事が分かる。さてアンテナを詳しく調べると鳩の糞が附いているではないか!この糞が誘電効果によりノイズを発生させたのだろうと奇麗に掃除したが、それでもノイズは減らない。どうにもこうにもノイズ対策ができずに困っていた頃、この話を聞いた研究仲間から「それはノイズではなく宇宙論で予言された『宇宙背景放射』の電波かもしれない」と示唆を受けたのである。

 ペンジアス達の失敗と思われたマイクロ波アンテナの実験は、思いもよらぬ発見をもたらす事になった。ノイズと思われた信号を詳しく分析すると、宇宙発生時における温度3Kでの黒体放射に合致すること、そして宇宙のあらゆる方向から均一に放射されていることなどが分かり、ビッグバン仮説からガモフによって推論されたCMB(宇宙背景放射)を証左することが明らかになったのである。民間企業のマイクロ波アンテナの技術改良が、なんと宇宙論の仮説を証明してしまったのだ。予想もしない快挙であった。この成果に対し1978年にノーベル賞が贈られた(残念ながら発案者のガモフは既に死去していたため、受賞を逃した)。

 ペンジアスもそうだが、ノーベル賞受賞者はその恩師がノーベル賞を取っている場合が多い。彼の場合、恩師はメーザとレーザを発明したタウンズ(量子・相対論12話)である。さらにタウンズの研究仲間ではショーローも後にノーベル賞を取っている。これは科学革命を起こした人の下で研究をすると、その時代の先端的で重要なテーマをキャッチしやすいことを意味しているのだろう。ペンジアスもタウンズのラボに入らなければ、メーザーマイクロ波天文学に接しなかっただろうし、タウンズとコネのあるベル研にも入らなかったに違いない。デイビーに雇われたファラデー、量子論におけるボーアの研究仲間、そのボーアの下で学び日本に量子論をもたらした仁科と彼に指導された湯川、朝永、さらにその弟子たち。天才同士のつながりが深いのは、優れたテーマの鉱脈を見つけやすいからだと考えられる(ニュートンやアインシュタインなどは孤高の天才でありこの流れには入らない。)

 ところで20世紀前半、多くの科学者はビッグバンモデルを批判したホイル同様、普遍で定常的な宇宙モデルを信じていた。ところが1929年、ハッブル(Edwin Powell Hubble、米、1889~1953年)による宇宙が膨張しているという観測結果(銀河の赤方偏移;ハッブルの法則)により膨張宇宙モデルが現れた。これはアインシュタインの一般相対論にも合致し、後のビッグバンモデルにも繋がってゆく。そして1965年のCMB発見とその後の詳細な観測により、ビッグバンは仮説から実証されたモデルに昇格したのである。さらに、宇宙の軽元素の存在比率(4He/1H ≒0.25、2H/1H ≒10-3、3He/1H ≒10-4、7Li/1H ≒10-9など)や、宇宙の銀河分布(宇宙の大規模構造)がやはりビッグバンモデルの予測値と良く合っていることから、現在ではビッグバンこそが標準的な宇宙誕生モデルと考えられている。

 しかしビッグバンモデルでは説明しにくい事もまだいくつか残っている。例えば「バリオンの非対称性」と呼ばれる、宇宙における「物質」と「反物質」の存在比率の問題がある。現実的には圧倒的に少ない反物質だが、ビッグバン理論によると初期には物質と反物質は同等の数(量)あったはずなのである。いつどのように反物質が減少していったかがまだ謎なのだ。次に「ダークマターの存在」。宇宙には光や電波では検知できない質量(ダークマター)が9割以上存在しているはずという推定がなされているのだが、まだダークマターが見つかったという検証はされていない。さらに「ダークエネルギー」という負の圧力を持ち、反発する重力としての効果を及ぼしている仮想的なエネルギーが宇宙全体に7割ほど存在しているという仮説も1990年に現れている。これらのことは、ビッグバンモデルではまだ大きな謎なのである。さて、誰がこれを解いてゆくだろう、それとも宇宙全体のビッグデータ分析によりAIが解明するのだろうか?これからの楽しみである。

宿題90: ビッグバンで始まった宇宙は、さてどのような終焉を迎えるのだろうか?

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