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* 電子・IT・新技術10:IC(1958年:キルビー)

Q86: 半導体集積回路(IC: Integrated Circuit)を構成している主要部品はトランジスタ以外には何があるか?

 1948年、ベル研でトランジスタが生まれてから10年後、集積回路のアイディアが生み出された。今、私たちが利用している電気系インフラや情報ツールには必ず半導体ICが利用されていて、その恩恵なしに社会が成り立たなくなっている。この半導体集積化のアイディアは、まずキルビー(Jack St. Clair Kilby、米、1923~2005年)によって提案された。1958年、米TI社に入った彼は、入社直後で有給休暇がまだ取れ無かったため、夏休みに一人出社し回路設計を行っていた。この時ふと「半導体基板上に必要な部品を全て作り込み、それらを配線で結ぶ」というアイディアを浮かべる。夏休み明けにこの案を上司に話した所、試作をやってみろと言われ、9月にゲルマニウム上にワンチップ発振回路を作ることに成功したのである。翌年1959年2月に半導体集積回路(Integrated Circuit)の特許出願を行った。

 時代を画す重要な発明は、ほぼ同時期にライバルが現れるものである。トランジスタの発明者ショックレー(William Bradford Shockley Jr.、米、1910~1989年)の会社に勤めていたノイス(Robert Norton Noyce、米、1927~1990年)は、じき、ワンマンなショックレーとは気が合わなくなり、有能な社員8人を連れて退社して1957年に新なベンチャー会社フェアチャイルド社を起こす(電子・IT6話参)。ここでトランジスタの将来を見越して集積回路の研究を行い1959年1月に、キルビー特許より洗練され現在のICに近い構成の発明を行った。部品は半導体上に作るものの部品相互の配線は空中ワイヤー配線で構成されていたキルビー特許に対し、ノイス案は半導体表面に絶縁層を介した配線も固着形成されている完成度の高いものであった。しかし特許出願はキルビーより半年ほど遅れて1959年7月となる。この2人の特許はその後、特許扮装を繰り返す。ノイスがやや有利に係争を進めたが、最終的には「両者がICの発明者」と認められた。しかしノーベル賞は最初の特許申請者キルビーのみに与えられたのである(2000年物理学賞)。

 実は、IC誕生以前にも「プリント基板」技術という同様な発想の技術が1900年代初頭に欧米で提案され、1936年には日本人による特許が国内で申請されている(キルビー特許の20年以上先!)。これはラジオの回路配線をプリントした絶縁基板上に、部品をハイブリッド集合させたもので、主要な配線が不要になるため製造バラツキが少なく、故障時にもモジュール交換だけで簡単に対応できる画期的なものであった。現在もこの技術は進化して幅広く使われている(基板が多層化(46層も!)されスルーホールで内層接続され高機能化されている)。これなど、発想はICの先祖と言えるだろう。さてIC化の利点だが、「システムの超小型化」「高信頼性」「低コスト化」の3点が挙げられる。又、「検出」「演算」「記憶」「出力」などの複合機能を1チップで実現し、個別素子の集合体で生じる浮遊容量や誘導による干渉と高速性の限界が飛躍的に改善され「超高速かつ大容量処理」が可能になる。コンピュータなどで必要な高速で複雑な処理や制御が安定に安価に実用化できた理由は集積化技術があったからこそと言えるだろう。

 ところで、半導体集積技術には「ムーアの法則」「スケーリング則」「プロセスルール」という3つのマジックが備わっている。まず、ノイスの友人で米インテル社の共同創業者ムーア(Gordon E. Moore、米、1929年~)は1965年に「半導体の集積密度は18ヶ月で2倍になる(=3年で4倍)」という将来予測を提唱。2020年を超えた現在もほぼこのルールで進化(高集積化)を続けており、2012年の時点で既に10億個/チップの集積密度が実現されている。次にスケーリング則とは「トランジスタのサイズを縦横高さ3方向で同様に小さくしてもそのトランジスタ個体の性能は変わらない」というもの。この性質があるから、どんどん集積を進めることができた。ただしあまり微細化して原子サイズになると、もはやトランジスタとして機能しなくなるので限界は自ずとある。ところで性能が変わらないと言ったが、消費電力と高速性は飛躍的に改善され、1/kの縮小で消費電力は1/k^2倍、スピードは約k倍に特性アップしている。最後のプロセスルールは「最小加工(プロセス)寸法がほぼ3年で0.7倍の進化を遂げる」というもの。2010年に32nm、2016年に10nm、そして2020年で加工限界の5nmを迎えると予測されている。

 これらの3ルールを組み合わせると集積化のメリットと課題が見えて来る。まず線幅が1/kになると集積密度はk2倍になり、1トランジスタあたりの消費電力は1/k^2倍になる。つまりICチップの総消費電力はk2×1/k2 = 1で増えない。又、コストはほぼICサイズで決まるので、コストも増えない。この両メリットにムーアの法則を適用すると、同一消費電力かつ同一コストで、1.5年毎に2倍のパフォーマンスのICが生まれ続ける事になる。ところが話は良い事ばかりではない。実はプロセスルールを考えると3年毎に2倍の集積密度にしかならないのだ。つまりプロセス技術の進化はムーアの要求より遅く、このため実デバイスのサイズを大きくして対応するしかない。この為、実際は消費電力が増え、チップ発熱も増大し続けている。一方、コストも上がるリスクがある。これまではコスト上昇は需要の多さと企業努力で吸収して来た。しかしこれからは技術限界や科学限界を超えたチャレンジになるため、コスト要因が高すぎて対応できる企業が限られてしまいそうだ。いやほとんど無くなると言ってよいかもしれない。これがIC高度集積の経済限界である。

 このように、集積化は、ムーア則のロードマップに乗りながら進化をして来たが、プロセス技術が追いつかず、さらに微細化に伴う設備投資増大の課題もあり、コスト限界が2020年過ぎに来ると言われている。その時点でムーア則は破れ、さらに、トランジスタの超微細化によるスケーリング則の破れも重なり、「ムーアその後」が見えなくなりつつある。特に最近「リーク電流や特性バラツキの増大」が目に付いて来た、これは限界が遠くない事を示唆している。これらのブレイクスルーには寄生容量や抵抗の低減等、限界スレスレの地道な改善もあるだろうが、全く新な考えかたによる半導体システムの構築が必要になるだろう。それは、3次元集積構成、AIなどのソフト革新との協力、生物機能に学ぶバイオ技術の導入など、混沌としながらも今後の発展が強いニーズの中求められている。次のキルビーやノイスが現れる事を期待しよう。(トランジスタ技術、2015年6月号に掲載したものを改訂)

宿題86:集積化がどんどん進み、ついに人間の脳のレベルを超える可能性はあるのだろうか?又そうなると何が起こるのだろう?

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