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* 電気・磁気21:電気式ラウドスピーカー(1925年:ライス&ケロッグ)

Q69;電気で音を出す技術は、ある偶然から見つかったのだが、耳をすませば、ある電気製品で聞こえるその現象とは何か?

 電力を音のエネルギーに代えるスピーカーの発想は、上のような偶然から生じたものである。1837年頃、英国の科学者ページは実験の合間に奇妙なことに気付いた。コイルの中の鉄心がコイルへの電流をon/offするたびに、「プチッ」という音を出すのである。on/offを継続させその速さを変えるとブ~ンという音になり音程も変えられるだろうと発想し、この現象をガルバーニ(電気・磁気2話参)に因んで、「ガルバーニ音楽」と名付けた。この現象は現在では「磁歪効果」とか「ジュール効果」と呼ばれ、磁心材料内部の誘導磁気の変動によって構造が伸縮する現象と理解されている。ドイツの教師で発明家のライス(Johann Philipp Reis、独、1834~1874年) は「ガルバーニ音楽」の事を知り、彼は「音声により振動する薄膜(ダイアフラム)でコイルへの電流を変調できれば、これはマイクとなり、コイル内部の鉄心に共鳴箱を付ければスピーカーとなるから「電話」が実現できるに違いない!」と考えた。早速、1860年に電話の試作器を作り100m伝送実験を行う。意気揚々と1862年に発表するがドイツでは関心を得られず失敗する。しかしこの発想は、なんとベル(Alexander Graham Bell、英、1847~1922年)の電話発明の16年前のことであった(電気・磁気9話参)。

 この発明家ライスは実に奇才であった、電話の「失敗」の少し前、「電気は、光のように空間を電線なしで伝わるはずだ、これを使って無線通信ができるに違いない!」と発想し、1855年から無線の実験を始めている。そして1859年「電気の空間への放射について」という論文を学術誌に投稿するが、この斬新な論文は掲載を却下された。この発案はなんと、マクスウェルの電磁波理論の出る6年前の事だったのである。歴史に埋もれてしまうには惜しい天才なので、彼の生い立ちを少し振り返ってみよう。

 ライスはドイツのゲルンハウゼンで1834年に生まれたが、母は彼が幼児の時、そして父は9歳の時に亡くなった。その後、父方の聡明な祖母に育てられる。6歳の時、地元の学校に入るがすぐに高い能力を発揮、教師から高等学校への入学を推薦される。そして祖母が彼をフリードリッヒドルフの高等学校に入れると、そこで優れた語学の才能を示してフランス語と英語を習得、さらに図書館で多くの知識を得たのだ。14歳になると、フランクフルトのハッセル高等学校に移りラテン語、イタリア語をマスターし、科学への強い関心が芽生える。教師は強く工科大(ポリテク)への進学を推薦したが、叔父は彼をフランクフルトの商人に奉公させた。しかしライスの科学への関心は強く、奉公の合間をぬって、数学と物理を独学し、機械工学を商業学校で学んだ。奉公期間が終わった頃、自分の天命は教師にあることを悟る。

 しばらく徴兵に参加した後、1855年、フランクフルトに戻った彼は私講師として数学と科学を教え始めた。ハイデルベルグ大で正式に科学を学びたかったのだが、恩師の進めにより1859年(25歳)、母校の高等学校の教師になり、結婚もした。電気による無線の可能性を発想したのはちょうどこの頃であり、個人で実験も行っていた。その後も斬新なアイディアを出しては実験を繰り返し、先進的な論文を書くのだが、大学を出ていないため、その多くが却下されたのである。彼の電話の発明は現在ドイツでその先見性が認められており、試作器は切手にデザインされ、彼の胸像が「電話発明者」として地元ゲルンハウゼンに設置されている。

 さて、ライス以降、1875年~1885年にかけて電気駆動型スピーカーは電話の発明と同時に再び発明されて進化することになる(電話にはマイクとスピーカーが必要であった)。米のベルやエジソン、独のジーメンスやテスラなどが競争しながら電話とスピーカーを次々に開発していった(電気・磁気9話参)。さらに蓄音機の出現と共に(電気・磁気10話参)、小さな機械振動を大きな音響エネルギーに変えるホーン型拡声装置も同時代に発達して行った(いわゆるラッパ型のホーンスピーカー)。このホーン型蓄音機の最高級装置「クレデンザ(1925年米ビクター社製)」の奏でる音響の大きさと音質の美しさは驚異的なものであり、広い講堂を音響で満たすほどの実力を持っている。現在のデジタル・オーディオが本当にそれを超えられているのか反省しなくてはならないレベルであり、当時の音響発生技術はそこまで進化していたのである。

 ところで、コイルの磁心を電気により振動させる(ムービングマグネット方式)のではなく、現在主流のコイル側を駆動する、ムービングコイル方式の電磁スピーカーは、1877年あたりから米や独で提案され、電話器に応用されていた。そして、その活用が本格的になるのは電気信号を増幅する真空管が現れて(電気・磁気13話)からになる。1915年に蘭のジェンセン(Peter Laurits Jensen、和蘭、1886~1961年) らは、このダイナミックスピーカーをP.A.(大衆音響拡声装置)に応用し、マグナボックス社を作った。現在のダイナミックスピーカーの構成は1925年にGEの技師であったライス(Chester Williams Rice、米、1888~1951年、先の発明家ライスとは無関係)とケロッグ(Edward Washburn Kellogg、米、1883~1960)により発明された。振動共鳴周波数を低くする(つまり低音をうまく出せるようにした)ことで音響特性を大幅に改善し、その実用性を高めたのである。1934年にケロッグは静電型スピーカー(いわゆるコンデンサ型スピーカー)の特許も出している。スピーカーの発明者はこのように、多くの人の発想と改善により、その応用分野を広げながら進化して来たと言えるだろう。

宿題69:音を発生させる振動板の無いスピーカーはあるだろうか?

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