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* 熱・化学7:カロリック(熱素)説の否定(1798年:ランフォード)

Q27: 大砲の穴のくりぬき作業を見ていたランフォードは、熱がどんどん金属から出てきて砲身が火の様に熱くなることに驚いた。当時、熱はカロリックと呼ばれる元素(物質)で、金属中に含まれるカロリックが摩擦によって開放されて熱が出ると考えられていたのだが、いつまでもあふれ出る熱にこれは何かおかしいと考えた。「もし熱を○○したら、金属はどうなるだろう?」と考え、彼は矛盾に気づいたのだが…

 そして大砲から出てくるかのように見える熱は、実は作業者の運動から生じているのではないか?と考え直したのである。それまで元素の一つと考えられていたカロリック説が否定された瞬間だった。そして、熱とは運動(つまりエネルギー)の一種ではないか?と推論する。しかしこの推論はなかなか当時の科学者たちに受け入れられなかった。ようやくこの考えが正しいと認識されるのはそれから45年後、ジュール(James Prescott Joule、英、 1818~1889年)が熱の仕事当量を測定(1カロリー=4.2ジュール)して運動と熱が等価であることを確認した時である(熱・化学16話参照)。

 ランフォード伯、本名ベンジャミン・トンプソン(Sir Benjamin Thompson, Count Rumford、英、米、1753~1814年)は1753年アメリカの農家に生まれる。奇しくも、同郷、同名のベンジャミン・フランクリンに似て、少年時代様々な商店で奉公を続け18歳で結婚したものの、妻子を残し、一人イギリスに渡る。これは英国側のスパイとして活動していたためであり、その後アメリカが独立すると、その報復を恐れドイツへと逃れ、そこで政治家として活躍した(なにやら007の様な人生)。37歳の時、その有能な政治手腕が評価され伯爵になる。アメリカで過ごした当時の地名ランフォードにならい、ランフォード伯を名乗ることになった。さてこのランフォード、ドイツの王命を受け、ある時ミュンヘンの兵器工場を視察することになった。ここで砲身のくりぬき作業を見て驚くのである。そこではあふれるばかりの熱が生じ、常に水で冷やし続けなければ、砲身は燃えるような熱さになってしまう。一体このあふれるばかりの熱はどこから生み出されてくるのだろう?伯爵にまでなった上級政治家がこの不思議さに心を奪われ、科学の世界に入ってゆくのである。

 納得のいかないランフォードはくりぬき作業の模型を作り、自分でくりぬき実験を始める。しかし、いくらやっても熱が出続ける。もし熱がカロリックという元素で本当に生じるなら、このカロリック元素を砲身の金属に戻すことができるはずである。しかし、このあふれるばかりのカロリックを金属に戻せば、金属は溶けてしまうに違いない。でもそんなことはおかしい、と考え、ひょっとすると自分のくりぬき作業が熱を出しているのではないか?と直感する。作業を強めれば、それだけ熱も良く出るからだ。自分で手をこなして実験したからこそ感じ取ったひらめきであった。「熱は運動である」この考えに確信を持ったランフォードはロンドン王立協会に論文「摩擦による熱の発生について」(1798年)を提出する。ランフォード45歳での快挙だった。

 ランフォードの説は当時の科学者にはなかなか受け入れられなかったが、ロンドン王立協会はこの論文を高く評価し、彼を王立協会員に認定。これを機にロンドンに帰ったランフォードは科学の研究ならびに教育機関であるロンドン王立研究所を設立し、弟子として採用したデービィー(Sir Humphry Davy, 1st Baronet、英、1778~1829年)(電気・磁気7話参照)を初代所長に任命する(さすがにすごい政治力!)。この研究所はその後デービィーやその弟子ファラデーなど多くの天才科学者を輩出することになった。さらに研究活動にとどまらず、積極的に一般庶民に対して科学の普及啓蒙活動を行い続けたこと(有名な金曜講演やクリスマス講演など)もこの研究所のユニークな特徴であり、まさしくランフォードの設立時の思想「知識を普及させ、科学を日常生活に役立てる」ことの実践であった。とりわけファラデーの名講義禄「ロウソクの科学」はいまだに世界中で読み継がれ、若い科学者の卵を育て続けている。

 さて、人類の犯した過ちの一つ「カロリック」はどのような概念だったのだろう?ラボアジェによると、「カロリック(熱素):物質を構成する元素の一つであり、目に見えず重さのない熱の流体であり、あらゆる物質の隙間にしみわたり、温度の高い方から低い方に流れ、摩擦や打撃などの力が加わることによって押し出されるもの」とされていた。もともとはオランダの医師、ブールハーヴェ(Herman Boerhaave、和蘭、 1668~1738年)が1724年に表した「化学の基礎」という本の中で唱えた概念で、ラボアジェによってより明確に定義づけられたようだ。ラボアジェはフロギストン説(燃素説)を翻したのに、なぜかカロリックは信じてしまった。熱はモノの中に潜む物質のひとつ、という解釈だが、ならば重さはあるように思える、しかし重さは無いという都合の良い架空の物質であった(ここらからすでに怪しい)。ところで、このカロリック説は100年以上生きながらえ、カルノーサイクルの原理、潜熱や比熱の理論、クラウジウス=クラペイロンの式など多くの科学的真理を導き出すことに有効(?)に使われることになる。誤った仮設から正しい真理が導きだされる科学の不思議さである。(こういう事は結構あり、量子力学の有名なシュレディンガー方程式も、彼の信じた粒子に付随する「実在波動」を想定して導かれたが、今は仮想的な「確率波」と解釈されている。量子・相対論7話参照)

宿題27:私たちは食事をすると、食物の中にあるカロリーを体の中に摂取しエネルギーとして利用すると考える。又カロリーを取りすぎると肥満の危険があるとも思っている。これは一種のカロリック説ではないだろうか?

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