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* 熱・化学27:ヒトゲノム解読完了(2003年:日米欧国際共同研究)

Q100:2003年、人の総遺伝情報であるヒトゲノム(DNAの構成4塩基の配列)の解読が完了した。このゲノムの中で「全ての人に共通」な部分と「あなたと私の違い(個性)」を担う部分があるのだが、個性を作り出す部分は全体の何%程度であっただろう?

 私とあなた、日本人と西洋人はこれほど姿や性格が異なるのに、なんと遺伝情報の中のたった0.1%の差から生じているのである。さらに人とウニでは70%が共通であった。ゲノム解読でこの様な驚異の事実が分かって来ており、ヒトが生物の中で特別な地位を占めて無いことが分かって来た。予想が外れて、科学者は大きなショックを受けている。

ところで、染色体、遺伝子、DNAそしてゲノムの違いは何だろう?ゲノムは総遺伝情報でありモノではないが、他の3つは実在するモノである。サイズが大きいほうから、染色体、遺伝子、DNAとなり、これらは細胞核の中に入っている。人の場合、染色体は24種類で、男性、女性はその中から23種(対)を所有している(対なので23×2=46本の染色体を持つ)。それぞれの染色体の中にはDNAが入っており、23本の染色体内部のDNAを全部つなぎ合わせると31億対の塩基配列(A,G,C,Tの4種)を持ち、全長は2mほどの長さになる。この長細い糸が数μmサイズの染色体の中に縺れずに折りたたまれ収納されているのである、見事な収納技術と言えよう。では遺伝子とは何か?それは意味を持つDNAの塩基配列グループであり、染色体の特定の位置に配置されている。ヒトの場合22000セットほどあり、ハエやねずみと同程度でイネより少ない。ヒトなら10万セットはあるだろうと予想されていたが、意外に少ない遺伝子数に科学者は又もやショックを受けた。

 ゲノムは生体の設計図である、とよく言われるがこれは正確ではない。実は遺伝情報に生体設計図は無かったのである。DNA配列はタンパク質の設計図ではあるが、臓器や組織の作り方や働き、使われ方についての情報は入っていない。ところが全く不思議なことであるが、同じゲノム情報から作られるタンパク質が、眼の細胞では眼の水晶体となり、肝臓の細胞では触媒となる。つまりどのような器官となるかは、遺伝情報ではなくそれを利用している細胞が自律的に決めているのである。同じタンパク質設計図を利用して、適材適所で器官と機能を発生させる細胞の匠さは今後解明すべき謎である。それは同じ一人のヒトが、会社では技術者として活躍し、家庭では父親の役割を果たし、地区では自治会長として働く状況に似ている。

 DNAの塩基配列を読む、ゲノム解読作業はどのようになされたのであろう?31億個の配列を間違いなく読み取る事は、そう簡単ではない。新聞30年分の情報と言われるこの配列を読み取るプロジェクトは、欧米アジアの世界協同作業で1990年に始まり(HGP:ヒトゲノム・プロジェクト)15年間の計画で進められた。24種類の染色体を各国の研究機関が分担し、コンピュータを使いながら、コツコツと単純で気の遠くなる解読を行うのである。日本は21、22番染色体を担当、全体の7%に当たる領域を読み取った。ところで、この国際プロジェクトの間に、面白いことが起こる。アメリカのベンチャー、セレラ社(米1998-)が、画期的な手法により、1年の短期間で(しかも1/10の低予算で!)全解読に成功し、特許を取ろうとしたのである。ゲノム情報は人類共通の「無償公開」財産であるというビジョンで進めていたHGPはこの事実にあせり、調整をセレラ社と行うことで、公開原則を認めさせた。又、この競合グループが現れることで解読完成は早まり、予定より2年早い2003年に何度も確認作業を行った末、完成版が発表された。

 国際ゲノムプロジェクトはヒトのゲノムだけでなく、多くの生物種のゲノム解読を進めている。さらに異なる民族1000人のヒトゲノムを調べることで、遺伝情報の多様性分析も2008年に始まった。今後のゲノム研究の方向は次の3テーマほどが考えられている。一つは、多様性とも関連しているが、「個性」を担うゲノム「SNP:スニップ」を見つけ、どのように機能しているかを調べることで、個人体質に合った薬剤や治療対応を見つける分野。2番目はゲノム配列から遺伝子を特定し、それが作るタンパク質を見極めること。ゲノム解読はいわば「遺伝情報(暗号)」を書き下したレベルと言える。この情報がどのような意味を持ちどのように機能しているか?という暗号解釈はこれからの課題である。3番目は、細胞がこれらの情報を基に、どのような手法で適切な臓器や器官を自律的に作りあげているのか、というメカニズムの解明である。これはES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)などの展開とも関連している(iPS細胞の発明者、山中伸弥(やまなか しんや、日、1962年~)は2012年ノーベル賞を受賞した)。

 ゲノム解読は、さらに応用上の様々な期待もある。ある人が遺伝的にかかりやすい病気を推定し、その人に合う薬の効果的な投薬。進化研究においては、これからの種の発展や、種の間の関係などの分析による、品種改良設計。さらに科学最大のテーマの一つである生命発生の謎に迫ることにも期待が持たれている。

宿題100:ヒトゲノムのような国際共同グループによる集団的研究において、一人の天才の役割はどのようなものだろう?

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